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絵画作品

蔓草の網

物語り

古い仏教経典には、人の心をとらえる欲望や執着を、根を張り、何度切っても再び伸びてくる「蔓草」にたとえる表現が繰り返し登場します。

何度その茎を切り、心に巻きついた蔓を取り去ったつもりになっても、根が残っていれば、やがてまた芽を出し、私たちは同じ苦しみに囚われてしまいます。

しかし、その根を断ち切ることは簡単ではありません。

なぜなら、私たちを苦しめるものは、必ずしも最初から「苦しみ」という姿で現れるわけではないからです。

甘えであったり、欲望であったり、嫉妬であったり。

執着もまた、時には私たちが生きていくための強いエネルギーになるけれど、それが度を越した時、いつの間にか心に絡みつき、自分自身を苦しめる蔓草へと姿を変えてしまうのです。


私自身、苦しみの原因を自分を取り巻く環境の中で、もがいた時期がありました。

けれど、やがて気づいたのは、私を本当に苦しめているものは環境そのものではなく、それを受け止め、握りしめ、手放すことのできない自分自身なのだということでした。


この作品のモデルは、当時思春期を迎えていた私の娘です。

これから彼女が生きていく世界にも、きっとさまざまな出来事が待っています。

時には何かに巻き込まれ、理不尽な苦しみを経験することもあるでしょう。

だからこそ私は、巧みに姿を変えながら心に入り込み、いつしか自分を捕らえて離さなくなる執着に気づき、それに背を向けて、自分の進む方向を見つめながら生きていってほしいと願いました。

画面の中で、娘の背後には無数の蔓草が絡み合っています。

けれど彼女は振り返らず、前を向き、その両手は「転法輪印」を結んでいます。


この作品は、私が世界各地の女性たちを同じ転法輪印を結ぶ姿で描いてきたI wanna see you シリーズの一作でもあります。

私たちは同じ地球に生まれた同じ人間でありながら、異なる国、環境、宗教、文化の中で生きています。

けれど、場所や文化が違っても、人はそれぞれに迷い、執着し、傷つき、苦しみながら生きている同じ星に生きる生物なのだと思うのです。


私は娘にも、世界中のさまざまな人と出会い、言葉を交わしてほしいと思いました。

そして、「あなたが抱えている苦しみは、あなただけに与えられたものではない」ということを知ってほしいと願っています。


違う場所で生きる誰かの言葉に耳を傾け、自分の言葉を誰かに伝えることで、自分を縛っていた蔓草から少しだけ離れ、再び前を向くことができるかもしれない。

この作品には、これから自分自身の人生を歩いていく娘への、そんな願いを込めました。

作品概要

蔓草の網

素 材:パネル・土・アクリルエマルジョン・日本画煉絵具・岩絵の具・胡粉・金箔・銀箔・玉虫箔・アルミニウム箔

サイズ:S50

制作年:2020年

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