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絵画作品

草木国土悉皆成仏

物語り

「草木国土悉皆成仏」という言葉があります。

仏教が中国から日本へ伝わり、さまざまな思想や信仰と交わる中で育まれてきた言葉で、草木や大地を含むあらゆる存在と仏性との関わりを表すものとして語られてきました。

私はこの言葉から、山も川も、動物も植物も、そして私たち人間も、それぞれが孤立して存在しているのではなく、大きな生命の循環の中にあるという世界を思い描きます。

私もまた、たまたま今この瞬間に「人」という形を与えられて存在しているだけなのかもしれない。

そう実感するきっかけとなったのは、ある一頭の鹿の死でした。


ある夏の日、いつものように犬を連れて山道を歩いていると、崖から足を滑らせたと思われる鹿が、道に倒れて死んでいました。

山で暮らしていると、動物の亡骸を目にすることは珍しくありません。

けれど、その鹿は翌日も、その次の日も同じ場所にありました。

亡骸の周りには黒い蝶が舞い、まるでその死を弔っているようでした。

やがて身体はほかの動物たちに食べられ、手足は離れ、体液が地面へと流れ出しました。残された肉も小さな生き物や微生物によって分解され、最後には毛皮と骨が残りました。


最初に鹿を見つけた時、私はただ「かわいそう」と思い、その場から引き返しました。

身体が少しずつ食べられ、形を失っていく光景はあまりに生々しく、しばらくはその場所を走って通り過ぎていました。

けれど毎日その場所を通るうちに、私は少しずつ鹿の変化を見つめるようになりました。

そして、『スッタニパータ』や『ダンマパダ』で読んだ、身体や老い、死についての釈迦の言葉を思い出しました。


生きている身体も、死んだ身体も、特別なものではない。
身体はさまざまなものが集まって一時的に形を成し、やがて老い、壊れ、再び別のものへと変わっていく。


それまで文字として読んでいた言葉が、突然、匂いと色彩を伴った現実として目の前に現れたように感じたのです。

私もまた、この大きな生命の循環のほんの一部が、ほんのひととき「私」という形になっているだけなのだということが、ストンと腑に落ちました。


鹿の血肉は分解され、やがて土へと還る。

その土が草木を育て、その草木をほかの生き物が食べ、その命もまた別の命へとつながっていく。

水も同じです。

山に降った雨は川となり、海へ流れ、やがて雲となって再び山へ戻ってくる。その途中で、人間にも動物にも植物にも昆虫にも、分け隔てなく命を与え続けます。

それまで何気なく歩いていた山の景色の中に無数の命が互いに関わり、形を変えながら循環している世界が、一気に立ち現れたように感じました。

そしてその光景が、釈迦の残した言葉と私の中で結びついた時、この作品の核が生まれたのです。


画面の中で、少女は天から降りてくる金色の光を静かに手のひらで受け取っています。

この少女は鹿の死を通して世界の見え方が変わり、そこからひとつの気づきを受け取った私自身の姿です。

作品概要

草木国土悉皆成仏

素 材:パネル・土・アクリルエマルジョン・日本画煉絵具・岩絵の具・金箔・銀箔・玉虫箔・アルミニウム箔

サイズ:1030×1456㎜

制作年:2020年

 

チェルシーインターナショナルファインアートコンペティション2023 入選作品
ロンドン国際クリエイティブコンペティション2023 オフィシャルセレクション受賞作品

 

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