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森の寂黙者

物語り

毎日犬を連れて散歩をする林道には動物たちの糞がよく転がっているのですが、その糞は季節によって色形が異なり、動物たちがどのような物を山で食べて暮らしているのかがよくわかります。

夏になるとその糞に玉虫色の美しい昆虫たちが集るので、まるで道に宝石が落ちているように見えます。近くで観察すると昆虫たちは一心不乱に糞を食していて、小さな糞は一日で姿を消してしまいます。そうして夏が終わる頃にはその昆虫たちの死骸が道に転がっており、その死骸に今度は蟻が集って数日で姿を消してしまいます。

私が釈尊のことばに興味を持つようになったきっかけの一つに「一夜賢者の偈」という物があります。「一夜賢者の偈」は、原始経典の一つである中部経典の『大迦旃延一夜賢者経』に出ている詩です。


「一夜賢者の偈」
過去は追うな 未来を願うな
過去はすでに捨てられ 未来はまだ来ない
だから ただ現在のことをありのままに観察し
動揺することなく よく理解して実践せよ
ただ今日すべきことを熱心になせ
明日 死のあることを誰が知ろうか
かの死神の大軍と会わないわけはない
このように考えて
熱心に昼夜おこたることなく励む人
このような人を一夜賢者といい
寂静者 寂黙者と人はいう
(『阿弥陀経のことばたち』36頁)


動物や昆虫たちの営みを垣間みたとき、私はつい大自然の厳しい循環を感じて胸が詰まりますが、当の動物や昆虫たちはその循環の一端を担っているなどという大義名分を感じているはずも無く、命の終わりを嘆く訳でもなく、明日の食事を心配する訳でもなく、彼らは自分たちの成すべきことを成して命をつないでいるのです。

この昆虫たちの姿にこの「一夜賢者の偈」が重なって見えたことから、今日という日を粛々と懸命に生きている彼らを賢者と考えて描きました。

作品概要

森の寂黙者

素 材:木・鉛筆・金泥
サイズ:約56cm×65cm

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